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その日は平日なのにいつもより忙しく、まともな休憩に入れたのは4時過ぎだった。
「あー………」
一人で唸りながら事務所の椅子に座って、そのまま机に突っ伏した。ひやりと冷たい机の板が、頬に当たって気持ちいい。
疲れた……
激しく疲れた……
あまりにも激しい疲労で、お昼ご飯を食べる気にもなれなかった。
あと2時間かあ…
長いようで短いようで長いような……
疲れのせいか、思考回路が上手く機能しない。
ガチャ
ドアの開く音がして、反射的に顔を上げると、丁度中に入って来る高野さんと目が合った。
「……うわっ、真山と目が合った。最悪。明日は雨だな」
高野さんはあからさまに嫌そうな顔をした。この人は、いつもこうやって悪態をつく。
慣れたからいいけど……。
「すいません……幸薄そうな顔で……」
「お、ちゃんと分かってるじゃん」
高野さんはニッと子供みたいに笑った。
男兄弟はいないから分からないけど、きっとお兄ちゃんがいたらこんな感じなんだろうなって、時々思ったりする。
こんなお兄ちゃん、いたら超怖いけど………
「あ、そういえば美羽ちゃん元気ですか?」
私の斜め前に座ろうとする高野さんに唐突に聞いた。
「ん?あー、元気元気。
最近何処行っても俺から離れねえの。パパといっしょいるーって」
高野さんの表情が、靴紐を解いた時みたいにフッと緩んだ。
「うわあー、可愛いですね」
「ま、俺の子供だからな」
高野さんには美羽(みう)ちゃんという4歳になる女の子がいる。
高野さんが休みの日に、美羽ちゃんを連れてここに来た事があるから顔は見た事ある。
お父さん似で目がぱっちりしていて、本当に可愛いらしい女の子だ。
願わくば性格は、お父さんに似ないで頂きたいけど……
「お前、今なんかすげえ失礼な事思わなかった?」
高野さんが私を睨んだ。
「お、思ってませんよ!」
おまけに勘も鋭い……
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