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「まあ、人として生まれて来たからには、一度子供を持ってみるもんだぞ。
結婚はもういいけど」
高野さんは、視線を机の上の新聞に戻した。
私は何て返していいか分からず、逃げるように視線を背けた。
わざとらしかったかもしれないけど、他にどうしていいか分からなかった。
なんとなく、沈黙が流れる。
美羽ちゃんのお母さん、つまり高野さんの奥さんは3年前に亡くなったと聞いた。
それ以来、高野さんは男手一つで美羽ちゃんを育てている。
高野さんはこういう性格だから、弱音を吐いたりしない。
少なくとも、私の前では一度も。
でも、自分の愛した人がこの世からいなくなるなんて、きっと想像を絶するくらい辛い事だったと思う。
それくらい、恋愛経験のない私にでも分かる。
私なら、きっと耐える事なんて出来ない。
自分が傷付く事さえ、たまらなく怖いというのに……
「ところでお前はどーなんだよ?」
「……え?」
高野さんの声が頭の上から降って来て、思わず視線を前に戻した。
「男、出来たのか?」
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