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聞かれた瞬間、心臓がドクンと、体を強く叩くのが分かった。
「そ、そんなのいる訳ないじゃないですか」
「ふうん……」
高野さんは新聞を折りたたみ、頬杖ついてまじまじと私の顔を見た。
「な、なんですか?」
「なんならお前、俺と付き合う?」
「は!!!?」
まるで予測していなかった言葉に、思わず椅子から転げ落ちそうになった。
「バーカ、冗談に決まってんだろ。今は美羽だけで手一杯で誰かと付き合ってる暇なんかねえよ。さて、一服してくるかのう」
高野さんは机の上に置いてある煙草とライターを持ち、椅子から立ち上がった。
「ちょ、冗談…キツイですよ…」
私の心臓は、まだ落ち着かない。
「26にもなって、いちいちそんな冗談信じるお前が悪い」
高野さんは悪びれる様子もなく、しれっと出て行った。
誰もいなくなった事務所で、やたらと自分の心臓音が響いている気がした。
『26にもなって、いちいちそんな冗談信じるお前が悪い』
それは……そうだけど……
しょうがないじゃん………
全部、信じちゃうんだから……
冗談も、からかいも、全部信じちゃうんだから……
小さくついた溜め息が、静かな空間に飲み込まれて行った。
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