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思わず声を上げてしまいそうになったのをぐっと堪えて、私は恐る恐る後ろに振り返った。
「朝はどーも。ヨーグルトちゃん」
期待していたわけじゃなかったけど、心の中で真っ先に(やっぱり……)と思ってしまった。
相変わらずピシッとしたスーツ姿で目の前に立つのは、やっぱりあの人で……
今朝は掛けていなかったけど、黒縁眼鏡のレンズの奥の瞳は確かに笑っていて、まるで読めない微笑みで私を見下ろしていた。
さ……早速…来た………
思わず身構えた私は、無意識のうちにジリジリと後退りしていた。
鼓動は速さを増し始める……
「つーか、何で逃げようとしてんの?」
相変わらず端整な顔が、不思議そうに私を見る。
私は一歩、後ろに下がった。
「あっ……あなたがふざけて……からか…ったりするからです……」
ビクビクするあまり、途中から声が物凄く小さくなってしまった。
「あのさ、途中から全然聞こえなかったんだけど」
彼は声のトーンを変えずにそう言った。
「だっ、だからっ…」
「でも部屋が隣同士だったのには正直驚いたよな」
言おうとする間に思い切り、話の転換をされた。
「あの……私の話……」
「あれはさすがに予測不可」
「あ…はい………ってそうじゃなくて私の話…」
「ま、こーいうのも何かの縁かもな」
その時、彼が目を細めて笑うのを見て
心臓が益々早く動いて
胸の辺りがじんわりと熱くなって
それ以上、何も喋れなくなってしまった……
ねえ、それもからかってる言葉なんでしょ……
だったら、せめて言葉だけにしてよ……
その笑顔は、反則だよ……
言葉は溢れ出して来るのに
何も言えなかった……
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