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確か小学五年生の時だ。
あの日は季節外れの雨が降っていた。
薄暗い中を、生徒たちが色とりどりの傘を差して三々五々と家路につく。
私もその流れに加わろうと、傘を持って昇降口を出て、
庇の下で立ち尽くしている妹に出くわした。
妹は珍しく困り顔で、
友達の家に行かなければならないのだけれど傘を忘れた、という。
妹の手元には、丸めた模造紙。
明日の授業参観のために、みんなでつくりものをするようだ。
明日、妹の活躍を見て喜ぶ父と母。
私は一瞬の躊躇をふりきり、
妹に手持ちの傘を差しだした。
大丈夫。お母さんが迎えに来るから。
妹はさらに困ったように眉をひそめたが、
傘を受け取り、何度も私の方を振り向きながら走っていった。
吹奏楽の音色。
体育館から聞こえる歓声。
携帯の発信履歴に増え続ける同じ件名。
気づけば昇降口の人影もまばらとなり、友人の顔もあたりにない。
辺りはだんだん暗くなり、背後の昇降口のドアに鍵がかかっても、誰も来る気配はない。
雨足はみるみる強くなり、アスファルトに跳ね返った雨粒が私の足を打つ。
暗闇に包まれた誰も来るはずのない学校の昇降口で、
私はうずくまり、誰かが来るのを馬鹿みたいに待ちつづけた。
突如開く、背後の昇降口。
真っ黒な空間。そこから伸びる、いくつもの虫の足。
私の身体はそれに何度も何度も貫かれ、
闇に喰われて、そして消えた。
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