演習にて

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「一三四、大丈夫か?」  二人には思いの外簡単に追いつくことができた。僕が遅れ出しているのに気づき、二人は速度を落としてくれたようだ。想一が気遣いの言葉を投げてくれる。 「うん、大丈夫」  そんな彼に僕は虚勢を張って答えた。さっきは不意をつかれて足を止めてしまっただけだが、実際体力は尽きかけている。とはいえ、足を引っ張るわけにはいかない。優しい気遣いも嬉しい反面、時として苦しいものなんだよね。ちなみに長太郎と想一は僕を一三四と呼ぶ。長太郎曰く、珍しい苗字なのでそちらで呼ばないともったいない、とのことらしい。なので仲が良くないというわけではない。むしろ長太郎は引っ込み思案な僕に積極的に話しかけてくれる貴重な友人だ。だからこそそんな親友の足を引っ張るのが正直つらい。これは訓練である。だがもしこれが本当の戦場だったら? 僕のせいで二人を死なすことになったら? 僕は以前から考えていたことがはっきりとした形になっていくのを感じていた。
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