神谷教官の場合

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神谷教官はまたどんなことを思っているか予想できない、曖昧な顔を浮かべて言った。 「まあ私は合同演習時くらいの教官だからたいそうなことは言えないけれど、個人的な意見を言わせてもらえれば、君には辞めてほしくないかな。軍医目指しているんでしょ?」 「え?」  軍医という言葉に反応する。  僕はこの私立東都防衛学院中等部に、軍医を目指して入学した。理由は至って簡単、僕の両親が軍医で、その素晴らしさを知っているからだ。  両親は僕が十歳の時に亡くなり、僕は祖母に育てられた。父と母がどのように死んだか、祖母は今でも教えてくれないが、最後の最後まで患者を見捨てなかった高名な医者ということだけはずっと僕に話してくれた。  いつしか僕の中で、両親への尊敬は憧れとなり、軍医への道は憧れから夢へと変わった。  だけど祖母はずっと反対だった。医者になる道ならいくらでもある。だがどうして「軍医」なのかと。祖母は恐れているのだろう。両親と同じように、僕もいつか戦地に軍医として派遣され、非業の死を遂げてしまうのではないかと。  しかし医者への道はお金がかかる。両親を失った僕を育ててくれた祖母や叔父さん夫婦に金銭的な負担をかけたくない。だからこそ、僕はそれでも夢を叶えるため、この学院を選んだのだ。 「あの……なぜ僕の夢を知っているんですか?」 「だって自己紹介に書いてあったじゃない」  自己紹介とは学院に入り、クラスが決まった際、書いたものだろうか。後でコピーされ、親睦を深めるように皆に配られた。先生達も僕らを知るために目を通していると聞いたことがあるが、普段僕らの専属の教師ではない神谷教官が目を通したのだろうか。だとしても一人一人覚えているというのは信じられない。
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