第一思考

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「自己紹介をしましょう!」  唐突に教壇に立った少女に、担任である立川 英晴(たちかわ ひではる)は困惑したような眼差しを向ける。  現在は一限目で現国のはずなのだが、何故授業をしようと教室に入ったら彼女が教壇に立っているのだろうか。 「よくよく考えたら私このクラスの人たちの名前とか全然知らなかったんです! なので、自己紹介をしましょう!」  いきなり何をぶっちゃけているんだこの少女はと、立川は溜め息をつく。今は七月、普通なら四月に初めて顔を合わせた人々が打ち解けてきたころだ。 「えっと、妙ちゃん、その……私の名前は覚えてるよね?」  おずおずと遠慮がちに挙がった手。長い黒髪を赤いリボンでまとめた少女。出席番号20番、『佐竹 小春(さたけ こはる)』。妙(たえ)ちゃん、と呼ばれたのは教壇に立つ前髪をバレッタで留めたショートカットの少女。出席番号14番、市川 妙(いちかわ たえ)。 「嫌だなぁ、知ってるよ~、スモールスプリング!」 「やめて! ちゃんと呼んで!」  にこにこと笑う妙とは対照的に、スモールスプリングは涙目である。 「ほら、よくいるじゃないですか! あだ名ばかりで呼ばれていて本名思い出せない人!」 「やっぱり覚えていないじゃないの!」 「まあまあスモールスプリング落ち着いて落ち着いて。で、なんでスモールスプリングなんだっけ? あれ?」  なんなんだこの失礼極まりない少女は。立川はそう思ったが、よくよく考えれば彼女は最初から失礼だった気がする。
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