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本当の初恋、と言われると、
頭に浮かんでくるのは
靄が掛かったあの光景。
中学時代のバスケの追試で一緒だった、
多分男だったであろうひと。
何故か顔も名前も、どんなひとだったかすら思い出せないけれど、
特別な感情を蘇らせるひと。
あたしはそのことを、
親友に話すべきかどうか迷った。
あたしの中学時代を知ってる円なら、
彼を知っているに違いない。
でも、そのコトを話したところで
円を困惑顔にさせるだけな気がして、思い留まった。
それに、
昔がどうであれ
今あたしが恋をしているのは
あくまで雅なのだ。
「…………ううん、そんなの居ないよ。
あたしは雅先輩にゾッコンなんだから、恋路の邪魔しないでよーっもうあははっ」
円は、そっか、と頷いてレジに向かった。
その時の円の、
何となく不満げな表情から
もっとあたしの初恋の話に食い付いてくるものだと思った。
しかし、意外にも
それ以降円から
その話題を持ち掛けてくることはなかった。
× × ×
「ねぇ、そういえば円って好きな人いるのー?」
帰り道、何となく円に聞いてみた。
しかし、余程漫画に夢中なのか、
円が反応を見せる素振りはなかった。
「まぁーどかぁー」
「…………」
今ので、絶対聞こえた筈だった。
「……まぁいっか」
あたしは空を仰いで、
つまらなさそうに呟いた。
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