多分、初恋。

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ダイニングに入るといつもと同じように、 ラップに包まれた フレンチトーストが二枚 テーブルに並べてあった。 それを見るなり あたしのテンションは一気に落ちる。 「もう行っちゃったか……」 あたしの母は、 毎朝六時半からスーパーのパートをしている。 父は単独でカメラマンをしているが、収入は皆無――― 我が家はいつも貧しかった。 そのせいで 夜どおしバイトを組んでいるため、 一つの屋根の下で暮らしている家族でありながら、 なかなか逢うことができない母。 そんな中でも 朝食を並べてくれる母には 感謝してもしきれない。 あたしは フレンチトーストを一口かじった。 甘くて変わらない味と、 ひんやりとした感触が口の中で広がる。 外からは小学生のガキ達が 人気アニメキャラのなりきりをしている声が 高らかに聞こえてくるが、 こちらはパンを咀嚼する音以外一切の無音だ。 ―――あぁ、何か変なかんじ。 そう呟いた直後に、自分で少し笑った。 違和感などあるはずがない。 もしかしたら、無意識のうちに 変わり映えしない毎日に変化を求めてたのかも……………………なんて、 何真面目くさったこと考えてるんだろ、あたし。 やっぱり今日のあたしは ちょっと変かもしれない。
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