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火神はふてぶてしく、いや、その表情で何かを隠すように、呟いた。
「夏は嫌いかな」
「……火神?」
どうしたのだろう、今日の火神は何かおかしい。何かを身構えているような、諦めているような。なのにごくたまに、決然とした光をその赤黒い双眸に宿す。
「なぁ火神、お前なんか今日変――」
その続きは、言えなかった。
突然駆け出した子犬、瞠目した火神。子犬は一目散に公園の出入口へ向かい、火神はその先を思い出して蒼白になった。
「2号……ッ!!」
そう、その先はすぐ道路。横断歩道が出入口の目の前に横たわる。
青の点滅が見える。子犬は道路の真ん中まで駆けていて、青の点滅が、火神はそれに気づかずに、点滅が終わる、火神が道路に飛び出して、そして――……
トラックが突っ込んできた。
信号は赤。
クラクションの音。
蝉の鳴き声。
ブレーキの悲鳴。
全部、全部吹っ飛ばして。
見開かれた赤黒い目。
呑み込むように。
グシャッという音。
ブッ飛んだ、肢体。
血飛沫。
赤
あか
火神の
――アカ。
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