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「……姉さん、どこでもいいから朗読してみて」
「……?いいけど……」
なぜそんなことをするのかわからない、と言いたげな姉さんだが、朝からこんなに冷や汗をかくような事態に陥っている俺自身が意味わからない
「えぇと……あら?……うぅん……」
「……どうかしたの?」
すぐに文字列を目で追った姉さんだが、その口を開こうとしては閉じて、また開こうとしては閉じてを繰り返した
ややあって、姉さんが諦めたように肩をすぼめた
「読めないの」
「はい?」
信じられないと繰り返すように、
「読めないのよ。頭ではスラスラ理解できるのに」
「………」
俺が読めなかった時点でその可能性は無きにしも非ずだった。読めない=俺に伝えたくないということなのだろうから
「そっか、ありがと」
「うん……役に立てなかったみたいでごめんね?」
「いや、十分だよ」
うん、十分だ。きっとこの本の謎は追々わかるのだろう。むしろマスターから譲り受けたものがそう簡単に解き明かせるわけがないんだ
そう考えたらスッと重いものが無くなってくな。いない所でも遺憾なく発揮されるマスタークオリティー。流石だ
そのままパラパラと空白のページをめくりながら苦笑い。それが最後のページに近づくと、布団がめくれる音がした
「ふぁぁ……ミクルさんにミコトさん……おはようごじゃましゅ」
「おはようルカちゃん」
まだ眠そうなルカが起き、それに返事をしてーーー
「おはようルカ……」
俺は目を見開いて固まった
視界に入ったのは本の最後のページ
空白だったそこに文字が浮かび上がった
ーーー『おはようルカ……』
ーーー俺は目を見開いて固まった
ーーー視界に入ったのは最後のページ
ーーー空白だったそこに文字が浮かび上がった
息が止まるかと思った
「は、はは……」
同時に、渇いた笑いが漏れ出た
浮かんだ文字は数秒後には真っ白い紙に溶け込むように消えて行き、同時に最後のページだった次のページが勝手に出来上がり、真っ白い紙が一ページ分増えた
「リアルタイムってことか……」
パタン、と本を閉じてため息。ギルド対抗戦で見たマスターの力など、片鱗にも満たないものなのだったと、ようやく理解した
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