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マスターが何を言っているかを知っている者はおらずーーお風呂に行ったことは誰にも言っていないので当然だがーー首を傾げながらも忙しなく自分の荷物を持ってボックスへと収納
本当にボックスは便利だ。魔力量に応じるからほぼ広さは無限だし、転移や念話といった利便性の高い魔法も無属性に属するから、無属性=日常という常識が芽生えても仕様がない
ロビー受付に行くと、既に男性陣は到着していたらしく、ハクが俺を見つけて手を振っていた
「随分遅かったな」
「女の子はいつでも遅れるものよ。それよりもハル、今日の予定を説明してあげて」
「は?なんでだよ。男女を分けたのはお前だろ?」
「女心と秋の空、略して女心とあきそらは変わりやすいの」
「略す必要あんのかよそれ……まぁいい、もう慣れた」
「ふふ、それでこそハルね」
「はいはい」
などという会話を経て、口調はダルそうでも慣れたと言うのが本当のようにしっかりと説明してくれた
「ええとだな、これからこの国の首都に行く。目的は……まぁ観光だと思ってくれていい。とあるところを訪問するから、そこの対応によっては一般の宿もあり得ればここよりもランクの高いVIP待遇もあり得る。ま、楽しみにしとけ」
ふむ、とりあえずは観光、と
でもやっぱりさっきのマスターが言っていた通り、『先方』とやらの出方次第で待遇が決まるらしい
このメンツ相手に力技で来ることは無いと思うんだけどなぁ……。むしろ自殺志願者さえも慄いて募らないだろう
色んな意味でナニされるかわからないからな
「グフッ、思案顔のミクルちゃんごちです!」
うん、色んな意味でね
というわけで、一日とはいえお世話になった従業員の方々が最後まで厚くもてなしてくれたので、お礼を口々に漏らしつつ名残惜しくも宿を出て、再び綺麗な景色のど真ん中へ
この宿自体が中々高い丘の上にあるおかげで、ずいぶん遠くまで見渡せる、のだが、
「おねえちゃん、一つでも街とか見える?」
「いや、何も見えないな」
そう、見渡す限りが植物、植物、植物
いくらここが辺境だったとしても、俺やハクの視力で見えないのはおかしいと思う
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