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「だがここに来るまでに見ているエルフたちからは何も感じなかったぞ」
規律正しく控えているメイドを横目で見ながらハルが言った
「そうね。だからこそよ」
あっけらかんと言い切り紅茶を啜るマスターに、雰囲気を払拭するようにハルが盛大にため息を吐いた
「あー……今回は思い切り羽を伸ばせると思ったんだけどなー」
ソファーにぐでーっと身体を預け、面倒くささと残念さを合わせた声を出したハルに、またもやクスクスとマスターが笑った
少し恥ずかしくなったのか、すぐに姿勢を正す
「…なんだよ。いいじゃねーかたまには」
「今ハルに話したかったのはまさにそのことなのよ」
「どういうことだ?」
「その前に」
一旦そこで言葉を切り、視線を談話室の扉に向け、明らかにハルに対してではない言葉を放った
「僕も混ぜてください、って言えるわよね?」
ハルが不思議そうに扉の方を見るが、特に何も変わったところがなく、しかも誰かに放ったのであろう言葉のその誰かからも反応はない
数秒ほど沈黙が続いたが、マスターがハルに言った
「ハル、丁度扉のすぐ真横の壁……蝶番辺りに思いきりデコピン飛ばせるかしら」
「……?わかった」
まったくわけのわからない状況のハルだったが、とりあえず言われた通りに手をデコピンの形にし、ソファーに座ったまま蝶番に狙いを定め、
「ここか?」
バゴッッッ!!!と言われた通りの場所に、まさに文字通り『デコピンを飛ばした』
ハルのデコピンにより飛ばされた空気の塊が蝶番の横の壁を貫通し、廊下は壁の破片だらけ。文句も言わずに片付け始めようとしたメイドたちに悪いことをした、とハルも慌てて手伝おうとして近寄りーーー
「……何やってんの、お前」
「い、いやーここら辺に可愛い女の子が……ってちょっと待て!今のデコピンを直に喰らったら俺の頭潰れたトマトみたいになっちゃうよ!?」
「お前にトマトよりも価値があると?」
「わかった。わかったから取りあえずその素手という名の凶器を降ろしてくれ。でないとそろそろ俺失禁しそう」
瓦礫に埋もれる形でそこにいたのは、同じくこの国の王と謁見した『神々の墓場』きっての変態ver.男ことグラスだった
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