5980人が本棚に入れています
本棚に追加
/886ページ
「あなたを女王の前に差し出してもいいのだけれど…」
「そ、それはちょっとご勘弁を…」
「それにまだ聞いてないわね」
「こんな矮小な僕ですがお願いします混ぜてください」
「よろしい」
一連の流れのような流麗な会話でようやく本題へ
「説明と言っても簡単なことなの。『経験を積む』。これに限るわ」
「おい、お前まさか…」
ようやくマスターの言いたいことが分かったハル。グラスも隣でやっぱりかとまた少しのため息
しかしすぐには賛同できないハルが続けた
「別にここでじゃなくてもいいんじゃないか?いきなりこのレベルは正直キツイと思うんだが…」
「さっきも言ったでしょう?『時期が早まってる』」
「………」
還す言葉が見つからないのか、押し黙ったハル
「だから、昼間レーヌんとこに行ったんだろ?」
「正解。流石ね」
グラスの正答にグラスの考えていたことがほぼ正解だったと裏付けられ、だからこそグラスは進言した
「あいつは言っても利かないからそうするしかなかったんだろ?だが、俺には無理な相談だ。奴とは因縁がありすぎる」
グラスの真剣な魔差しが、マスターの何も読み取れない瞳を貫く。何が始まるのか分かったハルも、見守る
瞬き数回分の間が空き、マスターが目を伏せ、次にはいつもの不敵な笑みに変わった
「いいわ。あなたの好きにして頂戴。ただ、基本的な方針は何も揺るぎはしない。それを心にとめておいて」
「…わかった」
いつになく真剣な表情のグラスに、いつもと変わらないマスター。ハルもハルで考えがあるのか、少し難しい表情をしている
沈黙の中に古い時計の秒針の動く音が響くが、すぐにグラスが膝をパンッと叩いて立ち上がった
「うっし、それじゃあ俺はこれでお暇させてもらうわ。もういい時間だし、寝なきゃ明日に差し支えるだろ」
「俺もそろそろルカを追いかけないとな。ルカ一人の夜道は心配だ」
ハルも立ち上がって伸びの運動をし、足並みそろえて二人がマスターに挨拶をしたところで、マスターが言った
「そうね。各々頑張りなさい。それと、ハルはきちんとこの後の質問に答えてあげるのよ」
「え?」とハルが言う暇もなく、瞬きの間に二人の前からマスターの姿は消えていた
最初のコメントを投稿しよう!