勿忘草。

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雨の日の図書館は、ひどく居心地が良い。 適度な室温。 穏やかな明かり。 遠くから聞こえる雨音。 僕は窓際の席に頬杖をついて座っている。 静かな空間。 「音の無いせか──」 「止めろ」 本を借り終わった寧が戻ってきた。 「あ、終わったぁ?」 「ん」 7月の下旬、夏休み中に、僕は寧と図書館に来ていた。目的は、十月の文化祭で発行する部誌のネタ探し。ちなみに、稲雉と雫子は親の実家へ帰省中。 机に広げたノートやらなにやらと手にした本を鞄に詰め、寧は帰り支度を始めた。 「ニカ、お前どうする?」 「んぅ? 僕はまだいるよ」 「そうか。じゃあな」 「ん、ばいみぃー」 寧を見送って、再び窓の外に眼をやる。 「……」 そういえば、今日は木曜だったか。 思い出すなぁ。 「……フォーゲット・ミー・ノット、か……」 言われるまでもなく、僕は思い出す。 忘れるまでもなく。 それは、ある雨の日の事。  
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