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いつものように両腕に本を抱え、カウンターへ持っていく。今日はスタンダールとアガサ・クリスティとエラリィ・クイーン。
それと、東野圭吾と森博嗣。
「こんにちは。今日もまた借りるねえ、少年」
「仁川ですよ。少年じゃありません。分かってて言ってるでしょう?」
そのとーり、と受付の中沢さんはおどけてみせた。四十過ぎなのに子供っぽいのは相変わらずだ。
「はい、こっちに渡して」
一冊ずつ後ろの貸出表にスタンプを捺しながら、中沢さんは訊いてきた。
「仁川くん、高校は決まった?」
「一応」
「どこ?」
「二紙です」
「ほぉ、二紙か。私と同じだね」
しゅっしゅっしゅー、と言いながら本を積み重ね、こちらへ押し出してきた。
「はい、期限は二週間までとなっておりますので、きちんと守って返却してください。って、君には言う必要無いか」
「それを言うのは中沢さんの義務ですよ。相手が誰であろうと自分の職務には忠実でなければなりません」
「言うねえ。昨今の政治家どもに聞かせてやりたいよ」
「県立図書館でそんな偏った事を言わないでください」
「ははは、一本取られた!」
ここが図書館だと自覚していないような音声で笑われた。とても恥ずかしい。僕が。
「失礼します」
「あ、じゃあねー」
にこやかに手を振りながら、中沢さんはまだ笑っていた。
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