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家の中に戻ると塚本に何の用だったのか聞かれたが、なんとか理由を作ってやり過ごした。
「あの人ちゃんと傘さしてった?」
「うん。塚本ってほんといいやつだよね」
なんでとキョトンとした顔をする塚本。塚本にとってはさっきのはごく自然な行動なんだろう。
普通は自分をストーカーしているやつにタオルや傘を貸さない。いいやつと言うよりも良い意味でお人好しだ。
「あ!そうだ!結人また映画行かね?」
塚本は映画が好きだ。基本的に何でも観るらしいが、意外にも泣ける恋愛ものが好きで、隣の席で目に涙を溜め一生懸命泣かないようにしている塚本を何度も見ている。
「じゃあ明後日にしない?」
明後日は土曜で学校が休みだ。塚本も了承してくれた。
その後塚本は気がすむまで沢木先輩の愚痴を話していた。
家に着き、携帯を開く。
出した画面には沢木先輩の番号とアドレス。
白光先輩のことは知りたい。だけど塚本の情報を先輩に流すのはいけないと思う。あんなに嫌がっているし…。
そう思いあぐねているところにいきなり手元の携帯が震える。
かけてきた相手は沢木先輩だった。
「はい…」
「千秋の趣味はジグソーパズル、好きなものはハチミツ。あのこは?」
沢木先輩はいきなり用件だけ話してくる。今さっき塚本のことは教えないという結論に至った。それを先輩に伝えようとすると携帯から威圧感をひしひしと感じる声が聞こえた。
「趣味と、好きなもの、早く」
「え、映画…と、ドーナツ」
ツーツーツー……。
聞きたいことを聞いたらすぐに切れた。画面を見るとメールを知らせるアイコンが点滅していることに気づく。
塚本からだった。土曜の映画のタイトルと、ざっとしたあらすじと、これでいいかを確認するメールだった。
「塚本、ごめん…」
それでいいことを返信すると、携帯を閉じた。
ベッドにドサッと体を沈ませると沢木先輩の言葉を思い出す。
「ジグソーパズルとハチミツ…」
実は俺もハチミツが好きだ。白光先輩との共通点が嬉しい。
携帯を開くと白光先輩の番号を表示させる。
あれからまた連絡はない。携帯の画面の白光千秋の文字を指でなぞった。
「我慢…」
先輩。こちらからの連絡禁止は、思っていたよりもキツいです。
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