第四章:エンディコットの鐘

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結論から言うと、タミャ侯爵家と改姓したケンタ侯が守護する広大な州境のあちこちからピーチレイン北部に麻薬が流れ込んでいるようだった。 当初ジンは、州軍内に関与する者が居ないか懸念して州軍情報部に調べさせたりしていた。 それと同時に、自分専属の秘密工作員であるガンにも調べさせた。 情報部とガンからの報告を合わせて見てみると、少なくともピーチレイン北の州境一帯を広く守護するケンタ侯領からの流入が中心のように推測できた。 自分の夫が麻薬犯罪に加担…? あのケンタ侯がそんな事をするとはとても信じられないが、全州に被害を出している麻薬犯罪。 公人である大将軍が、私情を持ち込むわけにはいかない。 それに、ケンタ侯は関わっていないにしても、少なくとも配下の軍人が関わっていると考えないと説明がつかないほどの大量な麻薬の流入。 ここで、困った。 辺境伯とも呼ばれる侯爵は、州境を守護して自治権もある程度認められる属国国主のような大貴族。 独自軍を持つことも許されている。 つまり、タミャ侯軍はあくまでケンタ侯の配下であり、州軍トップであるジンの配下ではない。 夫婦なのだからケンタ侯に捜査を依頼したら良さそうなものだが、ケンタ侯としたら自分の部下たちを疑う事になる。 闇雲にケンタ侯が自軍の面々を疑ったら、ケンタ侯への軍の忠誠心は一気に弱まるだろう。 大貴族領主の妻として、それは避けなくてはならない。 大犯罪だから捜査の打ち切りなどできないが、無実の者をケンタ侯に疑わせてはならない。 ケンタ侯に動いてもらうのは、容疑者を特定できた段階。 いたずらに尋問や誤認逮捕などさせたら、タミャ侯軍に対するケンタ侯の立場は最悪になってしまう。 問題が州軍ではなくタミャ侯軍内部の事ならば、州軍としとはあまり手出しが出来ない。 情報部には調査を続けさせたが、なかなか進展が見られなかった。 そんな中で、ガンから現物を押収して北部ルートの集積地とおぼしき場所を特定出来そうだと報告が入った。
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