第四章:エンディコットの鐘

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認める。 汚い事もたくさんしてきた。 賄賂を送ったり、人の弱味を握って脅迫したりもした。 そうまでしなくては、庶民出の没落貴族の婿が表舞台に立つなど、欲の皮がつっぱった特権階級の頂点である宮廷社会では、逆に血統の利権を脅かす不届き者として息の根を止められる。 王宮に、味方は一人も居ない。 仕事は誰にも文句が付けられないくらい完璧に。 更に、賄賂と脅迫を巧みに利用して、岩にかじりつく思いで今の地位を手に入れた。 現在のマシューの官職は、王族の私生活を司る宮廷省の高官。 エンディコット子爵家当主ならば、本来なら芸術の分野を司る学芸省の官職が相応しい。 しかしマシューは、魔王夫妻のより近くの官職を無理矢理もぎ取った。 そこまでになるのにマシューがやってきた数々の悪行に、自分達の利権を守ろうと必死な保守派の純血貴族たちが一斉に牙を剥いてきた。 一度でも正面からやりあったら、相手の思う壺。 宮廷内の風紀や序列を乱す者は、少しの乱れも許されない王宮では犯罪行為になる。 上位者への愚弄や無礼など、即刻処罰の対象として近衛隊に身柄を拘束されてしまう。 〔エンディコット家は…本来は伯爵家なんだ…。 俺が短気を起こして…ぶち壊したら…、エレノアはずっと…バカにされ続ける…。 アレンに…俺が今までずっと耐えてきた同じ悔しさを…どうして味わわせられるものか…!〕 それなのに…。 マシューが血を吐く思いで積み重ねてきた全てを、有ろう事か妻のエレノアが書簡一つで無駄にした。 他の誰に罵倒されても耐えられる。 もう、いい加減慣れた。 どうせ、最初から王宮に味方は一人も居ない。 しかし、妻のエレノアからの妨害は、マシューにとっては絶望せずにはいられないくらいにショックな事だった。 〔──どうしてなんだ… エンディコット家の家督者なら…、どうして…アレンの為にも…家の繁栄を望まないんだ…? どうして…そんなに…没落貴族のままでいたいみたいな…事をするんだ…?〕 嫌みな純血貴族たちを沈黙でやり過ごした後、マシューは頭を抱えてその場でうずくまった。
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