第四章:エンディコットの鐘

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「やーっぱ…。 雨降ってるとお客さん…来ないわよねぇ~…」 ダメ元でゴールデンボール・ベーカリーの軒先を借りて今日も歌声喫茶を開いてみたものの…。 用意したテーブルには、サキと洒落斎とトックンが、昨夜ジンが一晩で書き上げた台本をガン見しながら台詞を覚えてるだけ…。 「今日の出店税は…丸損ね…(泣)」 溜め息を吐くジンに、女将さんが笑って話し掛ける。 「そんな落ち込んでないで~!(笑) 昨日は普段の何倍も稼がせてもらったから、今日のランチはウチがオゴってあげるよ! ランチ代が浮けば、少しは違うでしょ? 晩ごはん分のパンも用意してあげるわよ。 そのくらい、昨日はお世話になっちゃったんだから。(笑) 四人の二食分なら、一日の出店税とトントンぐらいになるでしょ?」 「ぇ…。(汗) ぃゃ…そこまでは甘えられませんて…(汗)」 大貴族の妻で王州筆頭武官だから、実はお金持ちなんです…とは…言えない…。(涙) そんな会話をしていた時に、不意に雨の中を旅人がパン屋に入ってきた。 「おそれいります。 少々、よろしいでしょうか…?」 その旅人の声を聞いて、ジンたち四人がスッ…と視線を反らす。 「はいはい! どうかなさいましたか?旅の方(ニコッ)」 女将が愛想良く出迎える。 すると、雨避けのフードを外して顔を見せる旅人。 外した瞬間に、ジンたちは更に顔を背けた。 「こんにちは」 その旅人とは…。 「ボクはモスラ公爵の実弟で、ずっとモスラ地方に居りましたロイ・モスラと申します」 思いっきり、カゲトミだった。 「この度、兄が大貴族でありながら男性使用人の執事と婚約したいなどと急に言い出しまして、とにかくその相手に会ってみようと、ヘルブリュン郷まで参りました。 つきまして、この機会にお隣のご領主さまでいらっしゃるエンディコット子爵家の方々にご挨拶に参上いたしました。 しかしながら、この雨の為に途中で少し足首を痛めてしまい…。 もしご迷惑でなければ、こちらでしばし休ませてはいただけませんでしょうか?」 カゲトミが、今回の極秘ミッションに、いよいよ乗り出してきた。
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