第四章:エンディコットの鐘

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エンディコット家に何人子供が生まれようと、この鐘を鳴らせる者が家督者として当主を継いでいく。 だから、古い歴史を持つエンディコット家において、家督争いが生じた事は一度も無い。 当主とその後継者にしか現れないエンディコット家の家督者の証。 だから、現在この鐘を鳴らせるのはエレノア夫人と嫡男アレンの二人しか居ない。 初代エンディケと二代ヘルブラール父子が何十年も魔力を注ぎ込んで作り上げた巨大な魔動オルゴール。 女君主の誇りも。 愛する夫も息子も。 たとえ自らの命と引き換えにしても、守りたいものは全て守り通した…激しくも美しい大魔女の為に…父と子が心血を注いで鳴り響かせる鎮魂のオルゴールの鐘の音。 魔王宮城に移設しても、エンディコット家の家督者しか演奏できない。 逆に、そのエンディコットの鐘を王宮の宝とすれば、それを演奏できるのはエンディコット家の家督者だけ。 魔王家への貢献。 だからこそマシューは、こんな大規模な装置である大切な家宝であるエンディコットの鐘でも無理を押して王妃に献上する事を決めた。 これ以降も、エンディコットの鐘を鳴らせる家督者が居る限り、二度とエンディコット家が没落しないように。 強引で野心家な政治家として知られるマシュー。 周りはそこまでするかと、呆れ果てた。 けれど、宮廷で辛酸を舐め尽くしてきたマシューにとっては、自分が経験してきた苦難を自分の代で断ち切る為ならば、家宝を失っても少しも惜しくはなかった。 エレノアも、特に反対しなかった。 元々エレノアは出世欲や名誉欲や権勢欲というものがあまり無い。 物欲も薄い。 芸術家肌の彼女は、そういったものより、一人息子のアレンや領地領民や城の中の事を守り、音楽や読書を好む静かな領主夫人。 巨大な装置である家宝の献上という話に驚きはしたが、最後にはそれを承服した。 その話をペロから聞いたガンは、少し寂しそうに呟いた。 「──初代さまの妻への愛も…二代さまの母への思いも…、政治の道具に…しちまうのかよ…」
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