第四章:エンディコットの鐘

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エレノアがロイのデータを確認していく。 グランドスラムになる為の条件の一つ。 縁者に四人以上の最上級クラス者が居ること。 縁者に登録されるのは、三種類のみ。 二親等以内の血縁。 内縁も含めた配偶者。 つまり、互いに最も魔力を交わらせた第一粘膜接合者。 特殊な場合を除き、転生親と命名主しか魔の血族ではない転生魔族は、その転生親と命名主。 非常に狭い範囲だ。 ロイの縁者として登録されているのは、祖父・父親・母親・兄。 純血貴族一等の両親を持てば、兄弟が居れば大抵グランドスラムになる。 それらの情報まで細かく確認したエレノア。 貴族として知るモスラ公爵家の情報と合致していた。 「──間違い無さそうね…。 こんな時に…。 大貴族のノンキでお気楽なボンボンの相手なんてしてる暇は無いのに…」 「いかがいたしましょう?」 実直な腹心が訊ねてくるから、エレノアは何かを振り払うように毅然と背筋を伸ばし、貴婦人らしい美しいたたずまいを見せる。 「致し方有りません。 相手は魔王陛下でさえ敬意を表す強大な軍事力を誇るモスラ公爵家。 そのご当主実弟どのなら、この私がお迎えしないわけにはまいりません」 マーガレットに先導され、エレノア夫人が応接間に現れた。 それを確認して、カゲトミ扮する偽ロイ総督がスッ…と立ち上がり深く礼をする。 それにエレノアが応え、両手を前に組み、軽く膝を折ってうつむく。 貴婦人の略式の礼である。 相手がモスラ公本人なら正式な礼をしなくてはならないが、ロイ総督は公領の総督。 つまり、公爵領を兄領主不在の際、代わりに治める代官職。 それも魔王政府ではなく、あくまでモスラ公が領内支配の一貫で任命したモスラ公拝命の官職。 魔王とは無縁で、爵位も王州政府の官位も受けていない。 公爵家には敬意を表さなくてはならないが、あくまで個人としては爵位を持つエレノア夫人の方が断然格上である。 「エレノア・エンディコット子爵夫人です」 格上のエレノアから声を発する。 それにロイが恭しく最上礼を返しながら名乗る。 「お美しきエンディコット子爵夫人さま。 お初にお目にかかります。 モスラ公爵実弟、モスラ公領が総督。 ロイ・モスラと申します。 ご拝謁の栄を賜りまして、恐悦至極に存じます」 カゲトミの一世一代の大芝居が、ついに幕を上げた。
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