第四章:エンディコットの鐘

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エレノアが席を勧め、互いに向き合ってソファーに座る。 ピロがロイに新たなお茶を淹れ替え、エレノア夫人にもお茶を出す。 貧しくて、人手が少ない子爵城。 マーガレットが脇に控えたら、ピロが応接間から下がっていく。 それを確認して、エレノアがロイに視線を戻す。 優雅で堂々とした物腰。 挨拶から着座までのロイの動作を実は注意深く観察していたエレノア。 庶民の動きではない。 上流階級の中で生活している者でなくては出せない品格。 見た感じでは伝わってくる魔力がアヤフヤな気もするが、その血の魔力の質もとても高尚。 転生魔族なら、よほど高位クラスの魔族と契約しなくてはこうはいかない。 純血魔族の、それも純血貴族の血を色濃く宿していなくては、ここまで気品高い血の魔力は宿らない。 〔──本物ね…〕 エレノアが一つ得心してから、上品な微笑みを浮かべてロイの相手を始める。 「ロイ・モスラ公領総督どの」 「ロイとお呼びください。 地方官の職名などを、爵位を持たれる貴婦人がお口になさっては申し訳がございません」 「では、ロイどの。 わたくしの事は名に夫人のみお付けください」 「かしこまりました。 エレノア夫人さま」 「ところで、ロイどの。 この城の使用人に聞きましたが、兄上のモスラ公がご婚約をなさるのですか?」 「まだ決定ではございません。 兄はモスラ公爵家の当主でございますから、婚儀となれば大きな問題になります。 国許の母もとても心配をいたしまして、わたくしがまず相手の者を見に参りました」 「公母さまのご心配も当然でございましょう。 お相手は、男性使用人の執事とか…。 確かに純血魔族同士であれば、養子に二人の魔力を注いで実子の魔力を宿せます。 血も代わり、本物の実子に生まれ変わらせられます。 ですから我ら魔族の場合、同性婚でも子は成せますから性別はどちらでも構いませんでしょうが…。 使用人を…公爵配偶者にするのは…難しいかも知れませんね…? せっかくの純血貴族一等のお血筋が…跡絶えてしまいかねません…。 かく言うわたくしのエンディコット家も、市民出身の夫が入りまして、純血貴族三等の血の魔力となりました。 その使用人は、どのような者でございましたか?」 ここで「実はボクでーす☆」とは…言えない…。
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