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声のする方へ意識を向けると同時に、方向という概念が存在しているのだ、と安堵した。
そこに居たのは老人。
白髪と色を揃えた顎髭を蓄え、しかし燃える様な輝きを放つ瞳は、老人が熟練の武人であることを物語っていた。
「お初に御目に掛かる。唐突ながら私は武の神だ」
・・・今、この男は何と言ったか。
聞き間違いでなければ神を名乗った。
老人の眼からは冗談めいた事を言っている様な気はしないが、やはり確かに老人は自らを神だと言った。
「あ、あぁ」
情けない声が漏れる。
そういえばこの場所、この老人。今ある存在の全てが理解の範疇を超えていた。
武人の眼をした老人からは威圧するでも、拒絶するでもなく、しかし圧倒的な何か。それこそ神聖の言葉が似合うだろうプレッシャーを感じる。
成る程。
これが神か。
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