武の神

3/15
前へ
/87ページ
次へ
声のする方へ意識を向けると同時に、方向という概念が存在しているのだ、と安堵した。 そこに居たのは老人。 白髪と色を揃えた顎髭を蓄え、しかし燃える様な輝きを放つ瞳は、老人が熟練の武人であることを物語っていた。 「お初に御目に掛かる。唐突ながら私は武の神だ」 ・・・今、この男は何と言ったか。 聞き間違いでなければ神を名乗った。 老人の眼からは冗談めいた事を言っている様な気はしないが、やはり確かに老人は自らを神だと言った。 「あ、あぁ」 情けない声が漏れる。 そういえばこの場所、この老人。今ある存在の全てが理解の範疇を超えていた。 武人の眼をした老人からは威圧するでも、拒絶するでもなく、しかし圧倒的な何か。それこそ神聖の言葉が似合うだろうプレッシャーを感じる。 成る程。 これが神か。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

537人が本棚に入れています
本棚に追加