散歩

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当たり前。 そう、これは私にとって当たり前の事なのだ。周りからは有り得ないと言われるけれど、私だって、周りの人とズレている事は分かっているけれど、それでも、当たり前は当たり前なのだから仕方ない。仕方ないとしか言えない。 これに関しては、私自身声を大にして言いたいので、強く強調させてもらいたい。 「こんな事、当たり前の、当たり前による、当たり前の為の、当たり前だよー!」 目覚めて最初の言葉がこれ。端から見たら、可哀相な奴である事は目に見えて分かるが、まあ家の中だから大丈夫だろう。聞かれたとしても祖父だけだ。 と言うのも、私は両親の顔を見た事がない。祖父が言うに生きてはいるとの事だけど、本当なのか分からないのだ。 今更、淋しいとかはないから別にいい。それに、私には大好きな祖父がいる。それだけで、私は幸せだ。 だから何も問題はないのだけれど、学校で両親の話題が出ると、クラスの雰囲気が暗くなる。何とも言えない、纏わり付くようなあの感じが嫌いだ。別に同情してほしい訳でも、慰めてほしい訳でもないのに、妙に優しくされるのは耐えられない。 こんな経験を中学の時に散々した私は、高校では絶対に同じ事にならないように気をつけよう!と一人布団の中で決意した。 さて、決意も固まった事だし、そろそろ布団から出るとしよう。私は上半身を起こし、両手を上へ伸ばしながら時間を確認。 そして驚きの余り、両手を下ろすのも忘れて瞬時に立ち上がった。 枕元のデジタル時計は4時24分を表示していた。え、もうそんなに経ったの! いろいろと考えていたせいで、思いの外時間が経過していたらしい。しかも、大事な事がまだ決まっていない。高校でも散歩を続けるか否か。つまるところ、今日の朝散歩どうしよう。 するなら、早く支度しないと時間が無くなってしまう。しかし、今日朝散歩をすると言う事は、これから高校3年間、また毎朝散歩すると言う事なのである。今日を逃したら、辞め時を逃してしまう。従って、そう簡単には決められない。だからといって、ゆっくり考えている時間もない。 「あああー。こうなると分かっていたのに、どうして私は昨日決めておかなかったんだろう。どうしたらいいのー!」 入学式当日の朝、布団の上で頭を抱え、散歩に行くか否かで悩む女子高生なんて、おそらく私だけだろう。と言うか、私だけであってほしい。
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