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八メートルと十五メートルの長方形で区切られた一室。変色し、破れたソファが小さな卓を囲むように配置され、長いカウンターの向こうに並ぶ棚には、かつて素晴らしい銘酒があったであろうことを窺わせる素晴らしく美しい棚が陳列している。だが今は戸棚のガラスが割れ、中にあったはずのものはひとつもなく、代わりに床に割れたボトルが散乱していた。誰かに呑んでもらうことのできなかった様々な色合いを持つ中身は床に染みこみ、不気味な模様を作り上げている。
照明も割れ、その空間を照らすのは天井の傍に漂う白い球。電気が通っおらず、窓がひとつもないここでは自分で明かりを要しないければならないのだ。
もともとバーであったとわかるここに、十数人の男がいた。その誰もが青ざめた顔をしてある一点を凝視している。それは、カウンターの上に寝かされた――いや、ロープで縛られて身動きを封じられたと称するべきか――黒髪の少年がいた。そばにはピンクのタオル地で作られた兎の人形が転がっている。
「くっ・・・」
仰向けに横になっている少年の口から声が漏れる。
直後、それは盛大な笑い声となり、小さな空間に充満した。
「お、おい……なんか様子が変じゃないか?」
不気味そうにしていたひとりが少年を見ながら近くにいた他の男に言う。
「だ、大丈夫だって。いまのこいつなら縛っとけばなんてことはない。女どもが餌に釣られたらこいつも粛清するんだしよ」
「けど笑ってるぜ? 話に聞いた限りじゃ、前も急に笑い出した後……」
「馬鹿、いまは違うんだ。変に不安煽るんじゃねーよ」
軽い言い争いが笑い声に続く。それを聞きながら少年は男達へと視線を移す。
「僕が笑ってる理由……わかるよね?」
クスリと微笑んだ。
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