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そして、その何者かは、ぽっかりと穴の開いた床の上に立っていた・・いや、正確には浮いていた。
「魔王か!?」
所長が一歩前に踏み出し、その男に尋ねた。
その形相は、今までの穏やかな所長の顔ではなかった。鬼気迫る物があった。
その男は、破片が制止している中、マントを靡かせ、不敵な笑みを漏らす。
「人間共は そう呼ぶようだ」
低い声だが、静まり返ったホールに不気味に響き渡る。
「目的は何だ!?」
「目的?それは唯一つ・・・彼女だ」
魔王の金の瞳が正面中央のイルニスに向けられ、全員が彼女を振り返った。
「彼女をどうするつもりだ!?」
「どう?」
魔王が嘲る様に笑う。
「どうもしやしないさ、彼女が欲しいだけだ」
ざわめきが起きる。
ヒーストリックが叫んだ。
「お前になど 彼女を渡すものか!」
「私は、無理強いは嫌いだ。彼女が自分で決める事だ。
私の気持ちは知っているね?・・・イルニス」
「!」
イルニスは驚いた、魔王が自分の名を知っていた・・・イルニスは胸が高鳴った。
「彼女は私に約束した。
この私の言う事を何でも聞くと・・・。断ることは出来ないさ。
そうだろう?私が本気を出せばこんなドームの一つや二つ、灰にしてやろう」
脅しでは無いだろう、龍を従えている程の彼だ。
「さあ・・・おいで・・・」
彼がその手を差し出した。
イルニスは涙が溢れてきた。
これだけ自分を大切に思ってくれている仲間達を裏切る様な気分と、何にも出来ない事への悔しさと不安が胸を締め付けた。
それを見た魔王が、妙に優しげに彼女に囁いた。
「泣くな」
他の者達が驚いて魔王を見た。
しかし、魔王は直ぐ元の不敵な表情に戻る。
イルニスが一歩二歩と彼に歩み寄った時、ヒーストリックが引きとめようとしたが、突然プラズマが彼女に身体を取り巻き、彼はそのショックでその場に座り込んでしまう。
「イ・・ルニス・・駄目だ・・行っては・・」
苦しげに声を絞り出すヒーストリック。
彰がそれを見て、魔王に挑みかかる。
「チクショー!!」
それを合図の様にその場の全員が、魔王めがけて、攻撃の気を発した。
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