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「・・・あの・・・何か外で・・・変な音が・・・」
「む!?」
彼がベランダを凝視し耳を澄ましている。
「・・・別に何も?いつもと変わらない。俺の聴覚は君たちには聞こえない波長も聞き分けるが・・・」
低い声だった。
「ほ・・・ほら・・今 また ザザっ・・・て・・・」
「?・・・ああ~あれは森の木の葉ずれの音だよ」
「え・・・」
「そうか、君のあの世界ではそうそう大きな木も無いし、こんな風も吹かないか。
大丈夫、ここは俺の家だ。
ボロだが、結界が張ってあるから、他の魔物も入る事は出来ないし、太陽の光も気にしなくていい」
「ここは・・・貴方の世界なの?」
彼が肩に手を回したままでいたので身動きが取れない。
近くで改めて見ると、彼はとても大きく、がっしりとした体つきだった。
「そうだ、俺の統べる世界だ。そして君達 人間が捨てた世界だ」
「どう言うこと?」
「昔、俺がまだ幼かった頃、人間達は神や魔を信じ、恐れ崇めていた。
それが文明が進むにつれ、忘れていったのだ。
世界を汚すだけ汚して、己だけの世界を作って、この外界を汚れたまま捨て去った。
だが、俺達は人間の様にひ弱ではない、この地上でいくらでも生き延びる事が出来る」
「捨てた・・・」
「そうさ、俺がここを統べてから、100年は経ったが、まだまだ自然は病んだままの所が多い。
そこに棲む魔物や精霊は未だに苦しんでいる者も多い、だからその恨みを晴らしに時々人間達の所に出かける者もいると聞く」
それが、世に言う“怪人”のことだと判った。
「・・・貴方は・・・幾つなの?」
彼は相変わらず、肩に回した手を離そうとしない。
「209歳だったかな?」
「にひゃ・・・」
「フフっ・・・だが、俺はまだまだ若造だ、数千年を越える者も少なくない。
明日、色んな所に案内するよ」
「何故・・・」
「ん?」
「何故、私をここに・・・」
彼は私の髪を一束手に掴み、鼻先に持っていき匂いを嗅ぐようにした後、口元に持っていった。
不思議な金色の瞳が瞬きもせず向けられ、視線が外せない。
「俺の・・・妻にするために・・・」
顔が赤面するのが自分でも判った。
心臓もいきなり高まったまま戻らない。
「だっ・・・・だって・・私、人間・・よ?貴方より・・は・・早く死んじゃうのよ?」
思いっきり噛みまくる。
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