序説

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「ここは、、、、。」 やっと目をさましたか・・・。 私は思い切り眉間に皺を寄せて唯斗を見下ろしながら 思っていたことを言ってやろうと顔を近づけた。 「この酔っ払い・・・。責任とってくれるんでしょうね」 いい終わるとうつむいて泣くふりをしてみる。 「え?、、、、、えぇぇ」 唯斗の顔からさっと血の気が引いていく。 かなり挙動不審気味に周りを見渡すと あわててベッドから飛び起きた。 「あ、あの、その・・・・。」 青い顔で何か言おうとしているのがおかしくて 私は吹きだしてしまった。 唯斗はきょとんとした表情で私を見つめている。 「ご心配なく、何もありませんでしたから。ちなみに、、、 これから泥酔していても放って行きますので」 昨夜、唯斗がどうしても住所を言わず 床で眠りこんでしまうため仕方なく大学の保健室を使わせてもらった。 私はコンビニで買ってきていたお味噌汁を温めて 唯斗に差し出す。 「どうぞ、これ二日酔いでも飲みやすいですから」 「ありがとう、、、。」 受け取るとゆっくりと飲んでいた。 恥ずかしいのかな?顔が真っ赤だ。 恥ずかしいなら、泥酔するまで飲まなきゃいいのに・・・・。 「それじゃあ、私は家に帰りますんで」 私は荷物を持つとドアへ向かった。 「くるみちゃん」 まだけだるさの残った唯斗の声がして振り返ると 目の前に彼がいる。 びっくりしたけれど 私は努めて冷静さを装い唯斗の顔を見ると 彼はフィと顔を逸らした。 「送るよ」 小さな声でバツが悪そうに言う唯斗が面白くてクスリと笑ってしまった。 「唯斗先輩は人に合わせて笑顔を作っているよりも自然な顔の方が 人間らしくて良いと思います」 言った瞬間、唯斗は目を丸くして私を見た。 何か言おうと口を開いたけれど結局何も言わない。 私は彼の手を引いてベッドまで戻ると 布団を整えてから寝かせた。 「余計な気は回さなくて良いのでもう少し休んでください」 私は真面目な顔を作り唯斗に近づきゆっくりと 唇を耳元に寄せて 「寝顔はばっちり押えました。貸し10回ですよ」 と小さく耳打ちした。 唯斗はあわあわとうろたえていたけれど やがて両手を上げると降参というように薄く笑った。 私は振り返ると今度こそ保健室を後にした。 私はこの日入学してから 初めてバイトをさぼった。
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