旅行

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しばらく涼んでいると茶髪の男の子が話しかけてきた。 「俺隣で占いやってる一条連て言うんだけど、良かったらコーヒーでも飲まない?」 彼は紙コップに入ったコーヒーを私の机に置いた。 「ありがとう」 私は軽く頭を下げるとコーヒーを飲んだ。 「・・・おいしい」 私は思わず右手を口元にあて、紙コップ に注がれたコーヒーを見た。 インスタントコーヒーだと思っていたのにこれはちゃんと挽いた豆が使われている。 「それは良かった」 彼は愛想の良い柔らかな笑みを浮べた。 彼、連は黒いワイシャツにグレーのベスト、細身のパンツをはいており 一見占いをやっているようには見えない。 軽くワックスをつけた薄茶の髪にゆるく 毛束を作り右サイドに流している。 いでたちからかなり几帳面な人であるとうかがえる。 「御用は?」 私はニコリと彼に笑顔を向けながら聞いた。 全く面識がないのに話しかけ、コーヒーまで くれるのだから何か用事があるのだろうと私は思った。 「実はさっき来たお客さんのことで君に意見を聞きたくて・・・」 とりあえず私は連にイスを勧め座らせた。 彼は視線を左側へ寄せながら、さっき来たとされる客のことを話し始めた。 その客は中年で青いぼろぼろの浴衣を着ていて 目にくまが出来、ひどく疲れた顔でタロット占いをして欲しいといった。 連はカードを切り彼に一枚引かせた。 でたカードは(世界 The World:意味:完成・統合・達成)の逆一。 つまりどうしても完成しない。どこか不完全なまま終了する、と言うこと。 それを聞いた中年男は、聞こえるか聞こえないかの小ささで 「業はぬぐえないのか」 と言ったらしい。 連にはそれがどうも引っかかり [ケルト十字法]と言う最もポピュラーとされる方法で もう一度占ってみることにした。 ケルト十字法とは よくシャッフルしたカードを中央に一枚、二枚目はクロスするように 重ねその上に立て方向に一枚その下にも立て方向に一枚 一枚目の右横に縦方向に一枚、左側にも縦方向に一枚 この十字型の右横に縦方向で下側から四枚カードを並べ 場には合計で10枚のカードを置く。 おいた順にカードをみて解釈していくのだが その中年男を表すカードは見事にすべてが逆位置を示していた。 この方法は悩みを解決していくのに有効とされるのだが 男の悩みは中々解決できなさそうだ。
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