序説

7/14

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
私は少し唯斗の側まで近寄っていく。 唯斗は振っていた手を降ろすと笑顔のままで 「ね、何で屋上にいたの?」と私に聞いてくる。 「なんで・・・。」 私は驚いた。なんで知ってるの? あそこは宗科塔の学生以外は立ち入り禁止のはず。 唯斗は一般塔の学生だ。 「食堂がある別館の屋上が一番高くて見晴らしが良くてね。 間に木があるから学生塔からは見えないしね」 にこっと笑いながら言うと別館を指差した。 「上れると知らない人が多いから、貸切なんだ」 知らなかった。と言うことは唯斗も風景を見ていた? さっき感じた視線は唯斗だったようだ。 「ただ、風景がみたくて」 私が答えると、同じだね。といってまたにこりと笑った。 どうしていつも笑っているんだろう。 部室にいたときもそう、この人は基本いつでも笑ってる。 私もずっと笑ってる。 その方が楽だから。 まぁ、秋がばらしてしまったので この人の前ではもう笑う必要はないのだけれど。 唯斗は少し寒いのか手をこすっている。 ここは木々が多く雨も降りやすい場所だから 夜は格段に気温が下がる。 もうかなり遅い時間だから半袖の彼は寒いことだろう。 「一緒に帰らない?」 「嫌です」 私は眉に皺を寄せながら即答した。 唯斗の笑顔が少し困った顔になる。 「もう遅いから女の子一人じゃ危ないよ」 尚も困った顔をしている唯斗に私は続ける。 「唯斗先輩が一緒にいても一人とあまり違わない気がするのですが・・・」 「信頼されてないなぁ、これでも一応男なんだけど・・・」 唯斗は言いながら苦笑している。 私がさも本当に?という視線を向けるものだから 唯斗はますます困ったような笑顔をつくる。 なんだかいじめている気分になってきたので、とりあえず家の近くの コンビニまで送ってもうことにした。 彼はカーディガンを鞄から取り出すと私の肩にかけてくれた。 私も半袖を着ていたので寒いと思って着せてくれたようだ。 「ありがとう」というと 彼はまたニコリと笑った。 コンビニまでつくと彼は缶コーヒーを2本買い1本を私に手渡すと 帰って行った。 なんだか調子狂うなぁ。 彼の背を見送りながら私はありがたいというよりも こんな気を使われたことはないのでかなりつかれてしまった。 唯斗が門をまがり姿が見えなくなってからやっと家へ入った。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加