序章

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男は目を覚ました。きっと雨が降り出したからだ。 大雨だった。男はゆっくりと体を起こした。しかし、なかなか立ち上がることができない。体が重そうだった。 男は血まみれだった。男が身に着けている胴当ても、鉢金も、着物も、全て血に染まっている。それが、自分自身が、流した血なのか、返り血なのかは分からない。なぜなら、彼の周りには、おびただしい数の死体が、彼を取り囲むように存在していたからである。いや、彼自身も、目を覚ますまではこの「死体」たちの同類だったのであろう。「死体」といっても、全てが死んでいるわけではなく、中には微かに動いているものもいた。しかし、その光景はまさに「死屍累々」という言葉が最もふさわしいと言えた。 それは戦の痕跡であった。「影浪士」と言われる者たちが起こした中で一番大きな「一揆」であった。もっとも、この後彼らは更に大規模な事件を起こしていくことになるのだが・・・・ 男は空を見上げた。いつの間にか雨は止んでいた。雲の隙間から差し込む日光が、男の顔を照らし出していく。男はまるでその光を掴もうとするかのように手を伸ばした。 男の名は不破仁一郎。一年ほど前から「影浪士」を名乗っていた。。
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