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「早速なんだけど、今日から行ってみない? 場所はこの紙に書いてあるから。
あと、これも持っていって? それを見せれば、オーナーも色々詳しいことを説明してくれると思うから」
「えっ、楓姉ぇは一緒に行かないの……?」
「ごめんね、今日はこの後まだやらなきゃいけないことがあるから」
「そう、なんだ……。解った、一人で行ってみる」
「ありがとう、カノちゃん」
優しい顔の楓姉ぇに頭を撫でられ、私はすごく温かい気持ちになった。
話を持ち出された時は少し不安があったけれど、これだけのことですべてがチャラになったような気分だった。
そして店を出てからしばらくは家で時間をつぶし、その後に紙に書かれた店へと向かった。
少し人通りの少ない道に、こぢんまりとひっそり建っている、料理店「クラーロ」。
小規模な店構えだが、それなりに人で席が埋まっている。
食事時を避けて来ていたのだけれど、それでもお客さんが来ているということは、結構な腕前なんだろうな。
「……よしっ」
私は覚悟を決めて、もらった紙を握り締めながらお店の扉を開けた。
カランカランッ、という綺麗な鈴の音が鳴って、それとほぼ同時に「いらっしゃいませ!」と明るい声が響いてきた。
「ようこそ、クラーロへ。お一人様でしょうか?」
「あ、いえ、あの。今日は、えっと……っ」
接客に来た人があんまりにも輝いて見えて、私は一瞬で覚悟が何処かに流れていってしまった。
爽やかな笑顔で出迎えてくれた青年は、ニコニコとしながら私の反応を待っている。
こんなイケメンな人に会ったことがないから、私はますます頭が真っ白になっていたのだ。
イケメンさんは私の手元を見て何か察してくれたのか、小さく納得したような声を上げた後表情を緩めて微笑んできた。
「もしかして、キミが葉月の代わりに来てくれるっていう、与那代嘉乃さん?」
「あっ、はいっ!」
「ハハハ、良い返事だ。
そういうことなら、裏口から来てくれれば良かったのに」
「えっ、そうなんですか!? 全然知らなかった……」
無駄に緊張してしまった、と内心後悔しながらも、私はイケメンさんの後をついて歩いていた。
何がおかしいのか、彼はそんな私を見て小さく吹き出す。
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