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「いやぁ、本当に聞いていた通りの娘だな。
あ、ちなみに俺は佐久間慎平(さくましんぺい)。佐久間先輩って呼んでくれよな?」
「あっ、はい……」
「そんな緊張しなくても、多分即採用だと思うしさ。気楽に構えていいからな」
「はい、ありがとうございます。えっと……佐久間先輩」
私がやや首を傾げながら言うと、佐久間先輩は何故か悶絶しているように見えた。
心配になって顔を覗き込もうとするけれど、何でか先輩は目に涙を溜めて大爆笑していた。
お店に迷惑をかけないように、声は頑張って抑えていたみたいだけど。
「ごめん、ごめん! ついっ」
「はあ……」
意味が解らず首を傾げながらも、私は休憩スペースの中に入っていく佐久間先輩の後を追った。
すると、其処にはスーツに身を包んだ大人な雰囲気を放つ男性と、大人っぽい印象を受ける見覚えのある後ろ姿が目についた。
びっくりして、声が出なかった。
あの後ろ姿……もしかして?
「オーナー。葉月が言っていた例の娘、連れて来ました」
「あぁ、そうかい。ご苦労様、君は早めに持ち場に戻りなさい」
「……りょーかいです」
少しつまらなそうに答える佐久間先輩は、小声で「頑張ってな」と応援してくれた。
それにお礼を言う間もなく、彼はそそくさと接客フロアへ戻って行ってしまった。
ガチガチに固まりながらも視線を前に戻すと、やはり見覚えのある顔がこちらを見据えていた。
でも、それはいつもとは違い眼鏡を掛けておらず、少しだけ違う印象に見える。
「真野、君……」
「おや……真野君、彼女とは知り合いなのかい?」
私の小さな呟きを拾ったオーナーは、目を丸くしながら隣にいる真野君の方を見た。
彼は一度私を見た後、小さく頷きながら答えている。
「まぁ、そんなもんです」
「どういう知り合いなのか、ぜひ聞いてみたいね。
君がここの人間以外と接触しているところなんて、なかなか考えられないからね」
「……俺、そんなに冷めているように見えますか」
「ものすごく冷め切っているように見えるが、何処か違うのかい?」
「……。……いえ」
はぁ、と少し困ったように溜め息を吐く真野君は、見たことないくらいに表情があった。
肩を落として、少し困惑したようなやや情けない顔。
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