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額に手を当てて、あからさまに「やれやれ」と首を横に振っていた。
「ま、それはさておきだ。
これからここでアルバイトとして働いてもらうことになるが、大丈夫かい?」
「あ、はい。それは良いんですけど、私バイトなんてしたことなくて。
足を引っ張ってしまわないかだけが気掛かりで……」
「フッ、そんなことは気にしなくてもいいさ。
初心者だなんてことは、葉月君の話を聞いた時から百も承知だ。それでも、うちには一人でも多く人手が欲しい。
それだけのことなんだよ」
つまりは、別に私でなくても、誰でもよかったってことですよね。
何だか急に現実を突きつけられた気がして、頭を鈍器で殴られたようなショックを受けた。
ただでさえ自分の必要価値について気にしているのに、これは何の当て付けかと思ってしまう。
お店に来てまだ十分も経っていないというのに、私はもう泣き出してしまいそうなほどダメージを受けていた。
「オーナー、性質が悪いですよ。
相手は、俺と年の変わらない女の子なんですよ」
そう言って庇うように私の前に出て来てくれたのは、意外にも真野君だった。
背中を向けられているから表情は解らないけれど、少し呆れたような声を出している。
優しさなのか同情なのか解らない。
でも、この時の私にとってはとても心強い言葉だった。
「おや、そうかい?
君とさほど年の変わらない娘だからこそ、この対応だったのだが」
「全部が全部、俺みたいだと思わないで下さい。
ましてや、与那代は女なんですから」
「君が誰かの肩を持つなんて、珍しいことをするじゃないか。
そんなに彼女と親しいのかい?」
「……いいえ、然程。
ただ、俺と比べられた所為で泣かれるのは、気分が悪いだけです」
えっ、と驚いたような声を上げると、真野君は顔だけ少し後ろに向けてきた。
その目は少しだけ不機嫌そうで、少なくとも好き好んで助け船を出した訳ではなさそうだ。
彼の目を見ていると、「すぐ泣く女は嫌いだ」と言われているような気分になる。
くそぅ、なんか悔しくなってきた……。
私はちょっとムキになって、二人を睨みつけながら握り拳に力を込めた。
間違えても、泣いたりしないように。
自分を戒める為に。
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