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そう、私はきっと幻影を見ているの。
哀しさから。
寂しさから。
全てから逃げる為に、アイツに君の面影を探して。
だって、信じられる?
こんな事。
いっぱいいっぱい、約束だってあった。
色んな所に二人で出掛けて。
思い出を作って。
一緒に花火を見よう、とか。
やり残した事は数え切れないくらいたくさんあって。
それなのに君は、もう居ない。
どんなに叫んでも、もがいても。もう二度と戻っては来ない。
いつまでも過去に縋る馬鹿な女だと世間は私を馬鹿にするかもしれない。
でも、実際それは事実だから。
どんなにけなされても、否定なんてしない。することなんてできない。
それでも私は君を忘れずには居られない。
心の中にポッカリと空いてしまった穴を埋める為に。
傷口が塞がるような自然な感覚。
‘空いてしまったのなら塞げば良い’
そんな安直で、愚かで、馬鹿な私の考え。
それが〈秘密〉のハジマリ。
あの雨の日に出逢ったのは、君と顔も、声も、背丈も、ふとした時にする仕種も何もかも酷似したアイツ。
まるで君と入れ替わるように、私の前に現れたアイツ。
君と同じ綺麗な顔で手を差し延べて。
俺を代わりにすれば良い。
そう言って。
いけない事なんだって。
君を裏切る事なんだって。
頭の中で冷静に考える自分が居たのに。
取ってしまった。その手を。
差し延べられた手を。
どうしようもなく辛くて寂しくて、哀しかったから。
逃れたかった。
逃げたかった。
現実なんて、見たくなかった。
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