10人が本棚に入れています
本棚に追加
「何よ……何でいないのよ!!」
石畳の上をリリーは走り続けていた。隙間に入っているカーニバルの余韻の紙くず--恐らく紙テープのちぎれたもの--がやけに目について、目の前が回り始める。
「どこに行ったのよ……。もうホテルに帰ったの?」
リリーは立ち止まる。
「何必死で探してんの……。ヴァンパイアなんて嘘に決まってるじゃない」
自分を落ち着けるために呟くと、教会の見えるアーケードの下に座り込んだ。
後ろにある店にはカーニバルの仮面が飾ってあった。妙に猫が多い。
「そういや……猫が多いって聞いたのに、猫を見かけないわね」
人もまばらになり、騒いでいる観光客も減り始めた。ヴェネチアで宿を取れなかった人達は、昼の間に違うところに行ったようだ。
着信音が鳴る。憂鬱そうに携帯電話を耳に当てた。
「……ごめん。そんなに怒らないでよ……私だって疲れたの。子供のご飯の予約? ……いらないわ」
電話の主はどうやら帰ってこないリリーを怒っているらしい。
「謝るから……、あんたは仕えるべき従姉妹の事だけ考えてなさいよ」
向こうの声を聞かないように電話を切る。電源も落として、ため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!