Scene.01 マイグレックヒェン

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「何よ……何でいないのよ!!」  石畳の上をリリーは走り続けていた。隙間に入っているカーニバルの余韻の紙くず--恐らく紙テープのちぎれたもの--がやけに目について、目の前が回り始める。 「どこに行ったのよ……。もうホテルに帰ったの?」  リリーは立ち止まる。 「何必死で探してんの……。ヴァンパイアなんて嘘に決まってるじゃない」  自分を落ち着けるために呟くと、教会の見えるアーケードの下に座り込んだ。  後ろにある店にはカーニバルの仮面が飾ってあった。妙に猫が多い。 「そういや……猫が多いって聞いたのに、猫を見かけないわね」  人もまばらになり、騒いでいる観光客も減り始めた。ヴェネチアで宿を取れなかった人達は、昼の間に違うところに行ったようだ。  着信音が鳴る。憂鬱そうに携帯電話を耳に当てた。 「……ごめん。そんなに怒らないでよ……私だって疲れたの。子供のご飯の予約? ……いらないわ」  電話の主はどうやら帰ってこないリリーを怒っているらしい。 「謝るから……、あんたは仕えるべき従姉妹の事だけ考えてなさいよ」  向こうの声を聞かないように電話を切る。電源も落として、ため息をついた。
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