Scene.01 マイグレックヒェン

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「ク、ル、フ……。あの子、性格は悪そうだけど顔は良かったな。もう少し大きくて、優しいなら完璧好みだったのに」  また大きくため息をつく。ヴェネチアで観光を予定している3日のうち、初日はほとんど変な事に巻き込まれた気分だ。 「あーっ! ムカつく!」  頭を掻きむしる。三つ編みが少し解けてくしゃくしゃになってしまった。 「?」  路地の奥の方で何か声が聞こえた気がする。  リリーは立ち上がって、暗闇へと延びる狭い道を覗き込んだ。  真っ暗な路地は街灯もなくひっそりとしていた。恐らく観光客は訪れないであろうそこは、他のどの場所より気持ちの悪い雰囲気がする。それでもリリーは入って行った。 「……てない……」 「あ? 命乞いか? お前達は害なんだよ」  気のせいではない。掠れた……泣き声に、もう一人。  リリーは目をこらした。闇に慣れて、月明かりと、わずかに見える遠くからの明かりで二人が浮かび上がった。  先程の神父が長く太い棒を振り上げている。そのそばでしゃがみ込んでいるのは、黒いワンピースがずいぶんボロボロになっているクルフ。 「ぼく……血なんて吸わない……。人も動物も襲ってないし、爺さんに聞いてよ……約束してたのに……。殺さないで……悪い事、しないから……」 「司教様には、きちんと報告してやるよ。会うことは出来ました、だが、死にましたとな!」
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