10人が本棚に入れています
本棚に追加
「ク、ル、フ……。あの子、性格は悪そうだけど顔は良かったな。もう少し大きくて、優しいなら完璧好みだったのに」
また大きくため息をつく。ヴェネチアで観光を予定している3日のうち、初日はほとんど変な事に巻き込まれた気分だ。
「あーっ! ムカつく!」
頭を掻きむしる。三つ編みが少し解けてくしゃくしゃになってしまった。
「?」
路地の奥の方で何か声が聞こえた気がする。
リリーは立ち上がって、暗闇へと延びる狭い道を覗き込んだ。
真っ暗な路地は街灯もなくひっそりとしていた。恐らく観光客は訪れないであろうそこは、他のどの場所より気持ちの悪い雰囲気がする。それでもリリーは入って行った。
「……てない……」
「あ? 命乞いか? お前達は害なんだよ」
気のせいではない。掠れた……泣き声に、もう一人。
リリーは目をこらした。闇に慣れて、月明かりと、わずかに見える遠くからの明かりで二人が浮かび上がった。
先程の神父が長く太い棒を振り上げている。そのそばでしゃがみ込んでいるのは、黒いワンピースがずいぶんボロボロになっているクルフ。
「ぼく……血なんて吸わない……。人も動物も襲ってないし、爺さんに聞いてよ……約束してたのに……。殺さないで……悪い事、しないから……」
「司教様には、きちんと報告してやるよ。会うことは出来ました、だが、死にましたとな!」
最初のコメントを投稿しよう!