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クルフは不満そうにしながらも、リリーに手を引かれるまま歩く。
「キミの泊まってるアルシオーネホテルからは少し距離があるけど……夕食を食べたらパスポートとか貰いに行くわ」
「え?」
クルフはリリーを見上げる。リリーは気にせずに続けた。
「私、イタリアに観光に来てるのよ。ここの次は、ヴェローナ、フイレンツェ、サンジミニャーノ、ローマ。キミも行くでしょ?」
クルフは首を傾げ、困ったような顔をする。何が起こっているのか理解できない。
「私、人探しに来てるんだけど、ちょっと見つかりたくない人に見つかったから出直し。でね、キミを私の弟にするわ。紳士に育ててあげる」
リリーはクルフの髪をなでる。子供特有の柔らかい絹のような手触りがした。
「あの……」
クルフの呼びかけに、機嫌の良いリリーはふわりと振り返った。
「お姉ちゃんって呼んでよ。あー……こんなに可愛い弟が出来るなんて、幸せね。人間じゃないなんてこの際どうでもいいわ」
「あのっ!」
クルフはリリーの手を振りほどいて大声を出す。サンマルコ広場で夜景を楽しむ人々がクルフに注目をした。
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