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「何言ってんの? ぼくのことを勝手に決めないでよ。 また…………また、いつか捨てるんでしょ? ぼくの家族みたいに。司教みたいに。養父みたいに!!」
司教みたいに……?
「家族はぼくを司教に渡して、司教の爺さんはぼくを養父にあげたんだ。養父もヴァチカンにあげるつもりだし、もしあんたのトコに行ったら、次はどこに渡すの? ぼくはそんなに邪魔? いらないの?」
クルフの顔を見る。珍しい緋色の瞳が涙で滲んでいた。
リリーはクルフの目線にしゃがみ込み、手のひらで頬を包む。柔らかい頬にまだ残る産毛が心地良い。
「約束する。キミをどこにもあげない。1500ユーロ償ってくれた後も」
親指でそっと涙を拭った。会ったばかりの子を弟にするなんておかしいかも知れない。この子の言う事が嘘なら、犯罪者にすらなりかねない。
インスピレーションがそんなに頼れるものじゃないことも分かっている。けど……。
「ほっとけない」
傷だらけのすごく幼く見える9歳のヴァンパイア。普通の子供以上に不安に揺らぐ瞳。
この子が昼に見せてくれた笑顔にもっとなってほしい。いつも笑っていられるように。
「私がキミを守ってあげる」
その瞬間、クルフが少しだけ微笑んだ気がした。
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