Scene.01 マイグレックヒェン

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「……まだ信用してない」  クルフは呟き、それでもリリーの手を取った。広場から運河沿いに歩く。  大運河で24時間運航する水上バス--ヴァポレット--がゆったりと通り過ぎる。クルフは船が怖いのかリリーの手を強く握った。 「明日はあれに乗るからね。別の島にも行きたいし」 「ぼく、酔うから行きたくない」  リリーはクルフの背中を叩いた。クルフは嫌そうな顔をする。 「話しながら景色を見てたら酔わないから。つべこべ言わずに、観光するのよ!」  クルフはため息をついて肩をすくめた。強引さについて行けない。  静かな波の音と、空で眠る大きな満月。カーニバルの余韻は仮面をかぶり、はしゃいでる観光客で味わうことが出来る。 「でも、ヴァンパイアって昼でも動けるのね。ちょっと驚いた」 「……ぼくも。太陽浴びたら灰になるって聞いてたのに。今日はならなかった」  クルフは月を見上げて目を細める。リリーはクルフの頭を優しくなでると、同じように空を見た。 「キミは……クルフは太陽の下に居ても良いって神様が言ってくれたのよ」 「神様……? そんなのいないよ」  リリーはクルフの首に、『サンマルコ』と刻印されたロザリオをかける。正直、神は信じていなかった。でも、ヴァンパイアがいるんだから、神がいてもいいかなと思う。 「ほら、ロザリオしてたらヴァンパイアに見えない。ハンターに狙われないためのお守りになるわ」  リリーは笑い、クルフはロザリオをつまみあげる。
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