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「……まだ信用してない」
クルフは呟き、それでもリリーの手を取った。広場から運河沿いに歩く。
大運河で24時間運航する水上バス--ヴァポレット--がゆったりと通り過ぎる。クルフは船が怖いのかリリーの手を強く握った。
「明日はあれに乗るからね。別の島にも行きたいし」
「ぼく、酔うから行きたくない」
リリーはクルフの背中を叩いた。クルフは嫌そうな顔をする。
「話しながら景色を見てたら酔わないから。つべこべ言わずに、観光するのよ!」
クルフはため息をついて肩をすくめた。強引さについて行けない。
静かな波の音と、空で眠る大きな満月。カーニバルの余韻は仮面をかぶり、はしゃいでる観光客で味わうことが出来る。
「でも、ヴァンパイアって昼でも動けるのね。ちょっと驚いた」
「……ぼくも。太陽浴びたら灰になるって聞いてたのに。今日はならなかった」
クルフは月を見上げて目を細める。リリーはクルフの頭を優しくなでると、同じように空を見た。
「キミは……クルフは太陽の下に居ても良いって神様が言ってくれたのよ」
「神様……? そんなのいないよ」
リリーはクルフの首に、『サンマルコ』と刻印されたロザリオをかける。正直、神は信じていなかった。でも、ヴァンパイアがいるんだから、神がいてもいいかなと思う。
「ほら、ロザリオしてたらヴァンパイアに見えない。ハンターに狙われないためのお守りになるわ」
リリーは笑い、クルフはロザリオをつまみあげる。
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