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「何で、カンツォーネが別料金なわけ!?」
狭い水路をゆったりと進むゴンドラの上で、腰まである金髪を三つ編みにした少女は、横縞の服を着たゴンドラ漕ぎの胸倉を掴んだ。
「ちょ……お客様、ゴンドラの上で暴れないでください!!」
抜けるように青い空、2月のカーニバルの余韻が残る街で、橋の上からピエロの帽子やカーニバルの仮面を持った観光客が見物していた。
「何よ!!」
少女は一喝する。そもそも6人乗りのゴンドラに無理矢理一人で乗ったのだ。行き先やサービスによっても金額が変わり、最初に申し込みする必要がある。
「度が過ぎると、降りてもらいますよ」
漕ぎ手の男性も不機嫌そうに言い、少女はさらに不満そうな顔をして先端にある椅子に座った。
「ここ、ヴェネチアの一階は家賃が安いのですが、現在人口が飽和状態で住めないのですよ。ここの出身者ですら、結婚して実家を出るときは住む場所がありませんから」
「ふーん、そう」
つまらなそうに答える。やりにくそうに男性は続けた。
「たくさんの突起は、ベンチではなくて水位の上がったときに登るところなんです」
反応のない少女に苦笑いしつつ、男性は歌い始めた。ぴくっと反応をする。
「カンツォーネ!?」
「いえ、それは別料金なので、最近流行りのポップスですよ」
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