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「失敗……しちゃった……」
抱いて走る少女の服を力無くつかんで、子供は悲しそうに言う。
「失敗? 危ない事したのね? 子供はすぐ羽目を外すから嫌い」
「おばさん……誰?」
その一言で大切に抱いていた子供を思わず地面にぶん投げてしまい、少女は慌てて助けに走る。
「あのね、私はまだ17よ! それに名前だって……」
「マイグレックヒェン」
子供は微笑んだ。天使のような、今まで見たことのないような綺麗な笑顔だった。
少女は顔を赤くして立ち止まる。
「マイグレックヒェンって……どうしてそう思うの?」
子供は少女の胸に架かるペンダントを指した。すずらんの花が彫られている銀色のトップがついている。
「それはドイツで。私は誇り高きイギリス人よ。英語ではリリー・オブ・ザ・ヴァリー……私の名前はリリー」
「ぼくは…………」
子供はそのまま再び意識を沈めてしまった。
仕方なくリリーはそのまま広場へと向かうが、そこでどうしたいのかは分からなかった。
集合か、礼拝か、行きたいだけなのか、さっぱり。
子供を膝に乗せて、広場の端、海の見える2本の柱のそばで座った。鳩がやけに多く、後はそれを追いかける観光客。
「あれは日本……あそこは中国ね。英語、フランス語、イタリア語……はぁ」
ドイツ語は聞こえない。眠っている子供の顔を覗き込んだ。まつげが長く、5、6歳で性別不明。消えてしまいそうにはかなく見える。
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