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空が藍色になり、ゴンドラが次々と帰っていく。子供はまだ寝たままで、リリーは深くため息をついた。
「キミは何がしたいの?」
「クルフ! クルフ! どこだ!!」
遠くから中年男性の声が聞こえた。ドイツ語でしきりに叫んでいる。リリーは男性の方をちらっと見た。やけに怒っているようだ。
「あ……っ」
いきなり子供がびくっとして起き上がった。次の瞬間リリーにしがみついた。
「何よ?」
「このまま……見つからないで……っ」
リリーが不思議そうな顔をしていると、男性が歩いて来た。
「あー……英語でよろしいかな?」
「ドイツ語で結構よ」
だいたい、英語でよろしいかっていうのをドイツ語で言ってる時点でどうかと思うし。
リリーはため息混じりに言う。子供の体が震えている。
「うちの子を探しているんです。名前はクルフ、9歳の男の子です。観光に来ている最中に迷子になりまして」
「……お父さんですか? 9歳……?」
リリーは怪訝そうに言う。もし、探しているのがこの子なら、どう見ても5、6歳だし……。
「えぇ、ホテルから怪我したまま飛び出したんです。ホテルの調度品を壊しまして……、もし見つけたらここに連絡お願いできませんか?」
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