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男性はメモを渡す。ちらっと子供の方を見た。後ろ姿しか見えないが。黒いワンピースを着ているし、しがみついているから、サイズが大きすぎることに気がつきにくいはず。
「その子は……?」
「私の妹です。ゴンドラで酔ったみたい」
一応は子供の言う事を聞く。メモももらったし、父親なら後で連れていけばいいやと考えた。
「どういうつもり?」
男性が姿を消した後に子供に尋ねる。半日潰してしまった。観光気分も台なしだ。
「……あんたには関係ない」
「カッチーン!!」
思わず擬音が言葉で出る位リリーはカチンときた。少なくとも困ってそうだから助けたのに。
「キミはクルフ、9歳ね。合ってるの?」
子供……間違いなく『クルフ』は黙ったままだ。
リリーは手をつかんで立ち上がる。
「お父さあーん! ここにお探しの……んぐっ」
クルフはリリーの口を押さえる。
「おとなげないおばさんだね……。あれには見つかりたくないんだ」
「またおばさんって言った!」
リリーはクルフの頭を叩き、同じ目線にしゃがみ込んだ。
頭上ではうるさいくらいウミネコが鳴き、すっかり落ちた陽の代わりに、教会周りの店の明かりが付いていた。
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