Scene.01 マイグレックヒェン

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 男性はメモを渡す。ちらっと子供の方を見た。後ろ姿しか見えないが。黒いワンピースを着ているし、しがみついているから、サイズが大きすぎることに気がつきにくいはず。 「その子は……?」 「私の妹です。ゴンドラで酔ったみたい」  一応は子供の言う事を聞く。メモももらったし、父親なら後で連れていけばいいやと考えた。 「どういうつもり?」  男性が姿を消した後に子供に尋ねる。半日潰してしまった。観光気分も台なしだ。 「……あんたには関係ない」 「カッチーン!!」  思わず擬音が言葉で出る位リリーはカチンときた。少なくとも困ってそうだから助けたのに。 「キミはクルフ、9歳ね。合ってるの?」  子供……間違いなく『クルフ』は黙ったままだ。  リリーは手をつかんで立ち上がる。 「お父さあーん! ここにお探しの……んぐっ」  クルフはリリーの口を押さえる。 「おとなげないおばさんだね……。あれには見つかりたくないんだ」 「またおばさんって言った!」  リリーはクルフの頭を叩き、同じ目線にしゃがみ込んだ。  頭上ではうるさいくらいウミネコが鳴き、すっかり落ちた陽の代わりに、教会周りの店の明かりが付いていた。
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