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鼻で笑った響が視線を鈴斗に戻す。
「そんなことよりあんたよあんた。なんで学校行かずに帰ってきたの」
言外にお見通しだというように、響は続けざまに大きく溜め息をついた。
「どうせまた絡まれたんでしょう。しかもその様子じゃ殴られたりはしてないみたいだし?今日はきっちりシメてきたってところかしら」
まったくあんたは毎回毎回飽きもせずに……と呆れ声の彼女の言葉に、居心地の悪さを感じ視線を反らす。
「あんたよくそれで素を隠せるわね。いつか絶対バレるわよ、そんなんじゃ」
「うるさい……その辺のぬかりはねぇっつの。いつもはシメたりせずに上手くかわしてるし……」
そうだ。今日は少し、タイミングが悪かっただけでいつもはあからさまに手を出したりしない。
ちょっと運が悪くて、俺のゲーム代に手をつけようするような馬鹿な奴らに遭遇しちまったっていうだけだ。
そう鈴斗が呟けば、響も呆れつつも納得したように頷いた。
「まぁそいつらだって自業自得だし別に良いとして。成る程ね、いつもならあんた、さっさと金渡してさよならだもの。珍しいと思ったのよ」
まぁ理由がゲーム代だってのがあんたの残念なところよねー、と半笑いを浮かべた彼女が、それで?と続きを促す。
「結局そいつらはどうしたの?逆恨みされてまた絡まれたり、周りに言い触らされたりするんじゃない?」
「あぁ……そっちもぬかりはない。口止めしてきたから大丈夫だよ。一人のしちゃった後だったからな、残りの奴に優しく“お願い”したら、ちゃーんと約束してくれたから」
そう言ってポケットから小さな紙切れと二冊の手帳を取り出す。
ぴらぴらと振っていたそれを鈴斗の手から取り上げて、響は再度深く溜め息を吐いた。
「契約書と生徒手帳とは……。ご丁寧に署名まで。個人情報を握った上で、約束破ったら――……なんてお願いというよりまんま脅迫よね」
それらを眺めながら呟いた後、それを鈴斗の手に返す。
それから彼女はにっこりと楽し気に笑った。
「上出来よ、さすが私の弟。」
ポンポンと頭を撫でられたのが煩わしく、鈴斗は頭を振って響の手を振り払った。
その反応が気に入らなかったのか、一瞬動きを止め笑顔を凍らせた彼女は、次の瞬間、ふふ、と綺麗な笑みを零した。
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