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腕を組んで見下ろしてくるその顔は、いつものような笑みを浮かべておらず真剣で、その瞳は強く威圧感を持っていた。
「残念だけどこれは見逃してあげないわよ」
『ーー……見逃さねぇ』
ーーーー…………!!
『ーー諦めなよ……ーー』
『ーー……残念だがそれは無理だ』
「………………っ--……!」
その一言を引き金に、思い出すことを拒否する想いに反して、昨日の記憶が脳をハイスピードで駆けめぐる。
ーーできるなら現実から目を背けたまま思い出したくなかった、そして夢であると信じていたかった、忌々しいあの“三人”の記憶、がーー……。
「ーーーーーー……くっ……!!」
屈辱的な現実を再度つきつけられ、絶望で床に膝から崩れ落ちた。
ーー…………………っ…忘れたままで…………いたかった……っ!
息をつめ、両手を固く握りしめてうずくまる俺の背後で、姉貴は一瞬目を見開く。そして、口元に手をあて何か考え込むように視線を伏せた。
絶望に打ちひしがれる俺と、思考を巡らす姉貴の間に長い沈黙が落ちる。
ピーンポーン
思案が一段落したらしい姉貴が、言葉を発しようと口を開きかけたその時、先にその沈黙を打ち破るチャイムの音が鳴り響いた。
ーーチャイム……?
誰かの訪れを告げるその音に、俺の意識も絶望の渦から現実へと引き戻される。
ーー………誰だ、こんな時に……人が絶望に打ちひしがれてるこんな時に。
「空気読めよ、どこの誰だか知らねーけど……っ!!」
あまりのショックに理不尽な怒りがこみ上げる。苛立ちに任せチッと派手に舌を打ち、居留守を決め込むつもりでそのまま床に座り込んだ。
「……誰かしら。やぁね、セールスとか悪徳商売だったら」
あ、もしくは宅急便ね。この間注文したのがそろそろ届くころだもの。
一度煩わしそうに溜息を吐いた姉貴が、なんでもないように一言付け加えた。
ーー……それ、十中八九宅急便ってことだよな。
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