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「体調不良ってことにしといたから。そこの馬鹿みたいになりたくなければ二度とするんじゃないわよ」
電話を終え、リビングに戻ってきた響にとりあえず殊勝に頷いておく。
――じゃないと隣のゴミみたいに痛い目に合う。
チラリと隣でソファーに力なく横たわる鐘に見て、鈴斗はすぐに視線を戻した。
「あら、随分素直だこと」
「……兄貴みたいになりたくないからな……」
「そうね、懸命だわ。将来そんな奴みたいになったら困るものね」
――いや、お前の手によって、今現在の状況に。
思うも口には出せずに、彼は黙って己の姉から視線をそらした。
「それはそうと、さっきの電話の様子だとあんたの“地味生徒(ねこかぶり)”は先生にまでしっかり浸透してるようね。連絡が遅くなったのに、まるでお咎めなし。サボりの疑いをこれっぽっちもされないってどういうことよ」
響が向かいのソファーに座りつつ呆れたように言う。
当たり前だろ。俺の演技は完璧だっつの。
「そりゃこの“なり”で『成績も並、運動神経も並、人間関係も目立つとこなく、いたって大人しい地味っ子』やってんだから、サボりだなんて思わないだろ」
「よくやるわねー……。いくら“素”だといろいろ面倒くさいからって、演技(そっち)のが余計面倒くさいじゃない。成績も運動神経もコントロールしなくちゃいけないなんて」
「別に。たまに絡んでくるむかつく奴をその場で即シメできないのは面倒だけど、あとはいたって楽だし」
――平凡に、平穏に。
自由気儘な"普通"の生活。
誰に注目されることもなく、楽し放題。手抜きし放題。
これ以上幸せなことはないね。
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