391人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
見間違えであることを願い、瞬時に扉を閉めた俺を押し留めた張本人、目の前で微笑む男は残念ながら間違いなく橘本人であった。
ーーはっ!?
「いやいやいや、なんで橘!?」
「悠樹だけじゃないよ」
思わず声にもれた俺のつっこみに、僕らもいるよ、と言葉がかえる。
……今、水城の声が、した、ようなーー……
その声と言葉の指し示す事実に、ぴしり、と固まる身体を、ブリキのごとく軋む動きで動かし、恐る恐る橘の背後に視線をのばす。
心得たとばかりに、橘が足を後ろに下げ、身体をひいてみせたーー……とてつもなくにやけた笑みを浮かべて。
そして、視界に入ったのはーーーー
「……悪夢だ、きっとそうに違いない」
いや、絶対そうだ。そうじゃなきゃ何だと言うんだ。
俺は眼前に広がる光景に、小さく呟く。
その呟きに応える声が一つ。
「悪夢も何もこれは現実だ」
それを嘲笑うように……否、実際嘲笑して如月が言葉を返した。
「ーー……なんでお前らがここに居る……っ!!」
俺は心の奥底から叫んだ。
そして、橘の背後に隠れていた水城と如月の姿を(未だに認めたくない現実だが)脳が認知するが早いか、俺は再度、瞬足で扉を閉めた。
しかし勢いよく閉めた扉は、またもや橘が無理矢理ねじ込んだ足でせき止められる。
ガッと派手に音が鳴り、橘は今度は足のみでなく手までもねじ込み、扉を掴んだ。
そして、なんとか閉めようと力をこめる俺に負けぬ力で扉を押し開こうとする。
「……っ酷い、な……鈴ちゃんっ……なんでまた閉めようとしてんだ……っ」
「うるせぇっ!当たり前だろうが……その手を離せっ!」
ギリギリと均衡する力に、扉がミシミシと嫌な音をたてる。
くそっ……こいつ、力だけなら俺と互角か……!
「さっさと帰れよっ……!」
「そんなこと言わずに……っちょっとだけ、ちょっとだけでいいから……っ話を聞け!開けてくれよ!」
「悪徳セールスみたいな真似してんじゃねーっ!さっさとその足退けろ!そして帰れ!」
これじゃぁ本当に悪質な押し売りだろうがっ!
言葉までもが悪徳セールスマンのようになっている橘に思わずつっこむ。
橘の背後では、呆れた顔をした水城と如月がこちらを傍観している。
最初のコメントを投稿しよう!